2017年1月27日金曜日

マティス国防長官の拷問禁止支持とジュネーブ条約

米トランプ大統領は「水責め」を代表例とするテロリストへの尋問を支持する構えのようですが、米国防省はどうも違うようです。以下、AFPの記事をご覧ください。

マティス米国防長官は拷問禁止を支持、国防総省が発表
(引用開始)
 米国防総省は26日、ジェームズ・マティス(James Mattis)米国防長官の発言として、テロ容疑者などの尋問の際に拷問と見なされる手法を用いることを禁じた法律を支持する姿勢に変わりはないと発表した。
水責めなどの拷問について、ドナルド・トランプ(Donald Trump)米大統領は25日のインタビューで「間違いなく効果がある」と発言した。
 しかし、国防総省のジェフ・デービス(Jeff Davis)報道部長は、マティス国防長官が指名承認の公聴会で、一般的に拷問と見なされる尋問手法を禁止した「米陸軍野戦マニュアル(US Army Field Manual)」を軍や情報機関の尋問における唯一の基準とする方針を支持したとして、「この考えは今も変わっていない」と言明。「武力紛争法であるジュネーブ条約(Geneva Conventions)、国際法、米国内法を順守するとのマティス長官の証言に変わりはない」と述べた。
(引用終了)

国際法上、テロリストがどのように扱われるか?この問題に関する興味深い判例があります。2006年6月29日に合衆国最高裁が判決を下した、ハムダン事件と呼ばれるものです。

イエメン国籍のサリム・アハメド・ハムダンはアルカイダ構成員であり、かのオサマ・ビン・ラディンのボディーガード兼運転手を勤めていた人物です。このような人物に関して、米合衆国最高裁は判決内において、米国とアルカイダとの紛争は「非国際武力紛争」であるとし、ジュネーブ諸条約共通3条の適用を認め、条約内に定められた適切な裁判がなされていないとしました。
ジュネーブ諸条約共通3条の内容は、同志社大新井京先生の「オンライン条約集」より閲覧可能です。( https://www1.doshisha.ac.jp/~karai/intlaw/docs/gc3.htm )
 (引用開始)

第三条〔国際的性質を有しない紛争〕 締約国の一の領域内に生ずる国際的性質を有しない武力紛争の場合には、各紛争当事者は、少くとも次の規定を適用しなければならない。

 
(1) 敵対行為に直接に参加しない者(武器を放棄した軍隊の構成員及び病気、負傷、抑留その他の事由により戦闘外に置かれた者を含む。)は、すべての場合において、人種、色、宗教若しくは信条、性別、門地若しくは貧富又はその他類似の基準による不利な差別をしないで人道的に待遇しなければならない。
 このため、次の行為は、前記の者については、いかなる場合にも、また、いかなる場所でも禁止する。

 
(a) 生命及び身体に対する暴行、特に、あらゆる種類の殺人、傷害、虐待及び拷問


(b) 人質


(c) 個人の尊厳に対する侵害、特に、侮辱的で体面を汚す待遇


(d) 正規に構成された裁判所で文明国民が不可欠と認めるすべての裁判上の保障を与えるものの裁判によらない判決の言渡及び刑の執行

(2) 傷者及び病者は、収容して看護しなければならない。
 赤十字国際委員会のような公平な人道的機関は、その役務を紛争当事者に提供することができる。
 紛争当事者は、また、特別の協定によって、この条約の他の規定の全部又は一部を実施することに努めなければならない。
 前記の規定の適用は、紛争当事者の法的地位に影響を及ぼすものではない。
(引用終了)
拷問は、共通3条1項(a),(c)に抵触すると考えるのが妥当でしょう。そして、米国もまたジュネーブ条約の締約国です。また、慣習国際法にも抵触すると見るのが妥当でしょう。

マティス長官の姿勢に、胸をなでおろした気分です。

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