2017年1月9日月曜日

シリア ワディ・バラダにおける反体制派の戦争犯罪(水源破壊)

当記事は、アカウント非公開のフォロワーの方と、有識者の助言を参考にに記述したものです。まずは、この場にて深く御礼申し上げます。

本稿の趣旨は、「シリアにおいて反体制派がダマスカスに至る水源を破壊した事は戦争犯罪に該当するのではないか?」というものです。

2017年1月1日付のBBC日本語版記事を読み、(シリア反体制派が、ワディ・バラダという地域において戦争犯罪を犯しているのではないか?)と疑念を抱いたのが、 この記事を書くに至った契機です。該当部は以下に引用します。
 国連安保理、ロシア・トルコ仲介の停戦を支持
http://www.bbc.com/japanese/38481846
(引用開始)
 停戦合意発効前日の12月29日、国連はワディ・バラダでの戦闘に懸念を表明。ダマスカス周辺住民約400万人に飲料水を供給する水源を、戦闘員たちが意図的に攻撃していると指摘した。
ワディ・バラダは「ジャブハト・ファタハ・アル・シャム」を含む反政府勢力が掌握している。「ジャブハト・ファタハ・アル・シャム」は昨年7月に過激派勢力アルカイダと関係を断つまで、「ヌスラ戦線」と呼ばれていた。
(引用終了)

飲料水供給関連設備の保護を定める条約は存在します。1949年8月12日のジュネーヴ諸条約の国際的な武力紛争の犠牲者の保護に関する追加議定書(  https://www1.doshisha.ac.jp/~karai/intlaw/docs/ap1.htm  )第54条2項、1949年8月12日のジュネーヴ諸条約の非国際的な武力紛争の犠牲者の保護に関する追加議定書( https://www1.doshisha.ac.jp/~karai/intlaw/docs/ap2.htm )がそれです。しかしながら、前者は国際的な武力紛争を対象にしている為、後者はシリア政府が締約していない為に、直接適用するのは困難です。
ただし、日本国外務省のウェブサイトから確認できるように( http://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/k_jindo/ichiran.html )、前者に171カ国、後者に166カ国と非常に多くの国が加盟していること、国連安保理決議1674「武力紛争と文民に関する決議」を根拠に、慣習法(条文化されていない国際法)違反として追及していく事は可能だと考えます。

次に、反体制派の行為は戦時における文民の保護に関する1949年8月12日のジュネーヴ条約( https://www1.doshisha.ac.jp/~karai/intlaw/docs/gc4.htm )3条(ジュネーブ諸条約共通3条)に違反していると考えられます。条文を見てみましょう。
(引用開始)
第三条〔国際的性質を有しない紛争〕 締約国の一の領域内に生ずる国際的性質を有しない武力紛争の場合には、各紛争当事者は、少くとも次の規定を適用しなければならない。

 
(1) 敵対行為に直接に参加しない者(武器を放棄した軍隊の構成員及び病気、負傷、抑留その他の事由により戦闘外に置かれた者を含む。)は、すべての場合において、人種、色、宗教若しくは信条、性別、門地若しくは貧富又はその他類似の基準による不利な差別をしないで人道的に待遇しなければならない。
 このため、次の行為は、前記の者については、いかなる場合にも、また、いかなる場所でも禁止する。

 
(a) 生命及び身体に対する暴行、特に、あらゆる種類の殺人、傷害、虐待及び拷問


(b) 人質


(c) 個人の尊厳に対する侵害、特に、侮辱的で体面を汚す待遇


(d) 正規に構成された裁判所で文明国民が不可欠と認めるすべての裁判上の保障を与えるものの裁判によらない判決の言渡及び刑の執行

(2) 傷者及び病者は、収容して看護しなければならない。
 赤十字国際委員会のような公平な人道的機関は、その役務を紛争当事者に提供することができる。
 紛争当事者は、また、特別の協定によって、この条約の他の規定の全部又は一部を実施することに努めなければならない。
 前記の規定の適用は、紛争当事者の法的地位に影響を及ぼすものではない。
 (引用終了)
国際的な性質を有しない紛争に関する条文ゆえ、今回のケースには適用可能です。そして、水源を破壊しアサド政権側占領地域に住む市民が、飲料水・生活用水を十分に使用できない状況は、この条文に違反している状況と言えると考えられます。

そして2017年1月5日、国連関係者が「戦争犯罪」を警告する事態に至りました。2017年1月6日付AFP通信の記事をご覧ください。

シリア首都、500万人超が水不足 国連関係者「戦争犯罪」を警告
http://www.afpbb.com/articles/-/3113250?pid=18590951
(引用開始)
 国連の支援を受けてシリアの人道状況を調査する組織を率いるヤン・エーゲラン(Jan Egeland)氏は、「戦闘または破壊工作、もしくはこれら両方が原因で」市民550万人への水の供給が阻害されていると指摘。「破壊工作を行って水を入手できなくすることは、当然ながら戦争犯罪だ。水を飲み、水を媒介する病気にかかるのは市民だからだ」と述べた。
 ダマスカスでは飲料水の価格が高騰している。住民の話によると、供給不足の上、わずかに得られる水道水も飲むには適さないため、ボトル入り飲料水を通常の2倍の価格で買わざるを得ないという。  水不足の状況を打開するため、アサド政権側はワディバラダの奪還に乗り出している。
(引用終了)
記事末尾にありますよう、アサド政権側は停戦が発効したにも関わらず、ワディ・バラダへの軍事行動は継続しています。 水源の破壊が、停戦崩壊の引き金になる可能性もありうるでしょう。先に引用したBBCの記事の内容にあるよう、水源の破壊が反体制派によるものだとしたら、国際法、人道の観点から、強く非難されるべきと考えます。反体制派側にとり、国際的な非難を引き起こしかねない水源破壊という行動は、完全な悪手であったと言えます。

非常に重要な問題かと思いますので、Twitterやブログコメントを通じたご指摘、ご意見をお待ちしております。

PS:国連広報センターのサイトでは安保理決議1674の和訳が見当たらず、やむなく創価学会関連のサイトに掲載されていた和訳を参考にしました。( http://www.issue.net/~sun/sc/2006/1674.html ) どうして国連広報センターに和訳が無いんでしょうかね…?

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